Page10.猫に小判、豚に鎧?(家宝の鎧)

 オレが通されたのは応接室らしき部屋。
 いかにもプライドが高く、気難しそうな中年の男が待っている。
 彼が今回の依頼人だ。

「お初にお目にかかります、リヒャルト卿。私は依頼書を見て参りました、ベルントと申す冒険者にございます」

 こんなに構えて話すのは、いつ以来だろうか。
 故郷では当たり前だった言葉遣いの一つも、素に慣れた今となっては窮屈で仕方ない。
 だが宿を出る前、親父さんに「プライドの高い騎士様だから粗相の無いようにな」と念を押されている。
 それなりの振る舞いが必要だろう。

「む・・・冒険者風情と侮っておったが、多少は礼を心得た者のようじゃな」

 依頼人も居住まいを正した。
 リューン騎士団所属の下級騎士であるリヒャルト卿、44歳。
 代々貴族の家柄ではなく、傭兵であった祖父が戦功を立てて騎士位を得たらしい。
 まあ今回、依頼人のプロフィールは問題ではない。

 オレが今いる場所は、リューン市街にあるリヒャルト卿の邸宅だ。
 卿は郊外の山中にも別荘を持っているらしいが、そこに妖魔が住み着いてしまったとの事。
 王宮勤めの身に郊外の住処は都合が悪く、人を雇って管理させていたのが仇となった。
 討伐するにも私事であり、部下を動員するわけにもいかずに冒険者の宿に依頼を出したというわけだ。

 報酬は800sp。決着は早いだろうし、悪くない依頼だと思う。
 依頼人とのコンタクトも問題無く、オレは依頼を引き受ける旨を伝えた。
 簡単な打ち合わせを済ませ、邸宅を出てから深呼吸。
 意識して謙ると、存外に肩が凝るものだ。





 そして翌日、正午。
 リヒャルト卿と合流し、市街を出発して件の別荘へ。
 森の中、遠くに建物が見えた所で卿が立ち止まった。

「どうかされましたか?」
「・・・作戦遂行前に言っておかねばならない事がある。心して聞いて欲しい」

 オレは内心、「来たな」と思った。
 ただ妖魔を蹴散らして終わりなら楽な仕事だったのだが。
 おいしい話はそうそう無いらしい。

 卿も別荘を傷める事無く、妖魔の討伐が完了するとは考えていなかった。
 だが、別荘の二階に安置してある鎧だけは、何としても回収したいと言う。
 それは卿の祖父が国王より下賜された、いわば家宝と言える品なのだとか。

「なるほど。鎧の回収と妖魔の討伐、目的は二つあるわけですね」
「その通りだ。特に鎧の回収は、絶対に失敗できんのだ」

 こういう場合、得てして失敗したくない事の方が難しい状況になっているものだ。
 別荘の奥で、鎧を着込んだ妖魔とご対面、とか。
 絵面としては面白いだろうが。

 別荘が近づいて来る。
 入り口付近や外から見える窓に、妖魔の影は見当たらない。
 オレとリヒャルト卿は肩を並べ、正面から建物に乗り込んだ。





 別荘自体は、それほど広い作りでは無かった。
 右手に見える扉を開くと、そこは食堂。
 これ見よがしに鉄の箱が置かれている。

「卿、箱に見覚えはありますか?」
「いや・・・妖魔が持ち込んだ物ではないだろうか。好きにしてくれて構わん」

 簡単な罠を外して開ける。
 中に入っていたのは透明な瓶だ。

「黒い粒が・・・うわっ!?」

 瓶の中身は無数のノミ。背筋に冷たいものが走る。
 食べる為に保管しておいたのだろうか。 
 間違っても蓋を開ける気にはならない。
 散々悩んだ末、一応持っていく事にする。
 何かに使えるかも・・・何に使えるんだろう?

 入り口から左手の扉の奥は、応接室。
 何気なく本棚の本に手を触れていると、本の間に呪文書が挟まっているのを見つけた。
 リヒャルト卿の厚意で報酬の足しにさせてもらう。
 太っ腹な依頼人だと思ったが、鎧以外はどうでもいいと考えているのか。
 むしろそれほどまでに鎧が大事なのだろうか。

 廊下から二階に上がり、居間へ入る。
 オークに遭遇したが、難なく蹴散らした。
 リヒャルト卿もそれなりの腕のようで、妖魔にしばしば手傷を負わせている。
 現役の騎士に対して「それなり」というのは失礼なのだが、同行者も戦えるというのは非常にありがたい。

 オレ達は二階の最奥へ到達した。
 構造的に、何かがいるならここに違いない。
 卿がここまで何も言わなかっただけに、件の鎧もここにあるはず。

 扉を開けて踏み込んだ先は寝室。
 予想通り、複数のオークが陣取っていた。
 オレは手に持った剣を構えたが、横にいるリヒャルト卿の様子がおかしい。
 オーク共の中の、一際大きな個体を見て激しく動揺している。

「ぶ、ぶ、ぶぶぶ・・・」
「リヒャルト卿?」
「豚が爺様の鎧を着とる!」
「ええっ!?」

 冗談が本当になるとは。確かに、オークが着ているのは鎧だ。
 なし崩しに戦闘に突入するも、鎧を着たオークには全くダメージが入らない。
 この手の品は、話に尾ひれがついている事が多いのだが。
 時の国王に下賜されたと言うのは本当だったらしい。
 そもそもの管理に問題がある、などと言っている場合ではない。

「卿、一旦退きますよ!」
「離せー!鎧を取り返すんじゃー!」
「だから、その算段をするんです!」

 突っ込もうとするリヒャルト卿を引きずり、オレは手前の居間に撤退した。
 オーク共は追って来なかったが、寝室から勝ち鬨が聞こえてくる。忌々しい。
 卿と一緒に歯噛みするが、あの鎧を何とかしなければならない。

 攻撃を通すには鎧の防御力を抜くしかない。
 こちらにそこまでの攻撃力は無い
 鎧の防御力を下げる手段は、ここには無い。

 発想を変えてみる。
 あの鎧が無ければ通常の戦闘になる。
 取り上げるのは難しい。

(自ら鎧を脱ぐように仕向けるか、でもどうやって?)

 いや、可能だ。想像したくないが。
 オレは卿に声をかけた。

「・・・卿」
「む、何じゃ?」
「これを使いましょう。後でしっかり手入れしなければなりませんが、家宝の鎧を豚に着せておくよりはマシでしょう?」
「うむむ・・・仕方あるまい」

 卿もしぶしぶ了承する。
 家宝なだけに、その性能がよくわかっているのだろう。

 戦闘の準備を済ませ、オレ達は寝室へ突入した。
 鎧を着たオークがこちらを見て、勝ち誇った顔で威嚇する。
 何とも忌々しいが、その顔もここまでにしてもらおう。
 オレは懐から秘密兵器を取り出し、オークに向けて力一杯投げつけた。

「これでも食らえ!」
「ブヒィ!?」

 勢い良く飛んだ瓶が、鎧に当たって砕け散る。
 その後は・・・言葉にし難い状態に。

 秘策の効果は覿面で、見ているこちらがムズムズする。
 オークは慌てて鎧を脱ぐと、目的を達して至福のため息をついた。
 ハッとした顔でオレ達を見るがもう遅い。攻撃さえ通るならば勝負になる。
 リヒャルト卿が不敵な顔で腕を撫した。

「ククク・・・覚悟せい、豚共め!!!」

 静かな森に、卿の怒号と妖魔の悲鳴が響き渡った。





「・・・・」
「なあベルント、リヒャルト卿はどうかしたのか?」

 親父さんがオレに小声で聞く。
 事情を説明すると、親父さんは憐れみの視線を卿に送った。

 鎧の無いオークなど敵ではない、とまでは言えなかったが。
 オレ達は傷薬まで使って慎重に戦い、オーク討伐と鎧の回収を同時に達成した。
 リヒャルト卿が必死に鎧からノミを取り除く間に、オレは邸内に敵が残っていない事を確認。
 寝室に戻ると、家宝の鎧に息を吹きかけ、懸命に磨き続ける卿の姿が。
 一緒に宿に戻った今も、鎧をしっかり抱えてため息をついている。

「そいつは何とも・・・リヒャルト殿、お気を落とされませんように」
「ああ・・・世話になった」

 オレに労いの言葉をかけて報酬を差し出し、宿を出て行くリヒャルト卿。
 鎧を大事そうに抱きしめて歩く男の背中には、哀愁が漂っていた。
 ご愁傷様、としか言いようがない。
 オレは卿を見送った後、親父さんに言った。

「・・・親父さん」
「何だ?」
「ノミが詰まった瓶があるんだけど、どうしようか?」
「捨ててこい。ここで開けたら、宿を追い出すからな」
「・・・了解」

 下水に流すわけにもいかないし、とりあえず持ってようか。
 うっかり割ったら大惨事だから気をつけないと。










シナリオ名/作者(敬称略)
家宝の鎧/齋藤 洋
groupASK official fansiteより入手
http://cardwirth.net/

収入・入手
800sp、氷柱の槍(スキル)、ガラス瓶(ノミ入り)×3

支出・使用
青汁1/3、ガラス瓶(ノミ入り)

キャラクター
(ベルントLv2)
スキル/掌破、魔法の鎧、鼓枹打ち
アイテム/賢者の杖、青汁3/3、ガラス瓶(ノミ入り)
ビースト/
バックパック/

所持金
2320sp→3120sp

所持技能(荷物袋)
氷柱の槍

所持品(荷物袋)
傷薬×3、薬草×5、万能薬×2、コカの葉×6、葡萄酒×2、イル・マーレ、聖水、うさぎゼリー、うずまき飴×2、ガラス瓶(ノミ入り)×2、魚人語辞書

召喚獣、付帯能力(荷物袋)
グロウLv3

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